Write off the grid.

阿部幸大のブログ

古井義昭『誘惑する他者:メルヴィル文学の倫理』の取扱説明書

古井義昭『誘惑する他者:メルヴィル文学の倫理』が法政大学出版局から刊行された。本エントリは、本書のおそらく最速にして、今後だれも書かないであろうタイプの、奇怪な1万字の書評である。 Amazon.co.jp 古井義昭『誘惑する他者:メルヴィル文学の倫理…

Out of the Pocket‪──‬「ネオ・ソウル」再考、あるいは複数化するグルーヴ

以下は、かつてrockin'onがオンラインで開催していた音楽文ONGAKU-BUN大賞という懸賞企画で入賞した文章である。 同企画は、たしか最初の数年間は大賞が30万円、入賞が10万円という賞金で年に1度の応募を募り、のちにブログのようなオウンド・メディアでの…

戦後日本のサブカルチャーにおける加害としての暴力

以下は、2020年の『群像』新人賞で最終選考まで残り、落選となった文章である。 これはもともと同賞への応募原稿として書いたわけではなく、アメリカ留学中に何十本と書いたノートの1つである。留学1年目の第2セメスター終盤、わたしは履修していた授業の…

トップジャーナルの採用条件  日本の人文学の新時代にむけて

American Literature 誌に論文が採用された。Afro-Asian Antagonism and the Long Korean War というタイトルで、アメリカは朝鮮戦争を介して黒人とアジア人の人種対立を作り出した、と論じている。同誌はアメリカ文学研究におけるザ・トップジャーナルで、…

パラグラフ写経のすすめ 文体を入れ替える

このエントリは、すでに英語でそれなりの量の文章を書いてきたものの、現状の作文力に不満を抱いており、どうにか改善したいと感じている──おもにそのような書き手にむけて書かれている。 わたし自身は人文系の大学院生なのだが、人文学は文章を読んでもらう…

アートとしての論文 人文系の院生が査読を通すためのドリル

0.Ars longa, vita brevis 本稿は、査読論文がなかなか書けずにいる人文系の大学院生に向けて書かれている。 日本の人文系の院生は研究職を目指している場合が多く、そのためには業績が必要になる。具体的には、諸学会が発行するジャーナルに学術論文を投…

『少年ジャンプ』における成長の3つのパターン

少年マンガのストーリーを牽引する最大の動力、それは 成長 である。 このほど、大好きな『ブルーピリオド』についての論考を書いたところなのだが、この芸大受験マンガは、ある意味で成長そのものについて思弁するマンガ、「メタ成長マンガ」とでも呼べそう…

「前置詞」の勉強ってしたことある?『熟語本位 英和中辞典』への道

0.はじめに いきなりですが、あなたは talk away という熟語の意味がわかりますか? talk は「話す」、away は「離れて」という意味で、これは知っていると思います。 が、これじつは、「ぺちゃくちゃ喋りまくる」って意味なんです。 なぜこんな意味になる…

文法をショートサーキット化せよ! 日本人が英語を話せない本当の理由

0.はじめに 前回のライティングに関するエントリ、「文体を作ろう! それなりに英語は読めるのに英作文が極端に苦手なあなたへ」が好評だったので、そこで告知したように、第二弾です。 今回はスピーキング対策について書きます。 前回と同様、どちらかと…

文体を作ろう! それなりに英語は読めるのに英作文が極端に苦手なあなたへ

0.はじめに このエントリは、なんとなくですが、 ①大学受験の延長で勉強を続けた結果それなりの英語力はあるのに、②読解力にくらべて作文力が極端に劣ると感じていて、③もう少し英作文ができるようになりたい人 といったあたりの、わりあい限られた読者に…

中二病の英訳について[第二版]

「中二病」をいかに英訳すべきか? この問題を、わたしは折に触れて考えてきました。もちろん、その答えはひとつではありえません。本エントリは、これにひとつの解答例を提案することを目指します。 ◆ 中2 「〜年」といえば、まずは xxth-grade といった英…

トマス・ピンチョン『ブリーディング・エッヂ』冒頭試訳

二〇〇一年春の最初の日のこと、マクシーン・ターナウ(一部のシステムは未だに彼女の名をレフラーとしているが)は息子たちを学校へ送っている。まあ確かにもう付き添いが要るような年齢じゃないけど、親のほうがまだやめたくないっていうか、たった二、三…